園子温監督最新作の映画『ひそひそ星』。「愛のむきだし」(08)でベルリン、「冷たい熱帯魚」(10)でベネチアと海外映画祭の受賞を経て、本来の過激路線作からホラー、アクション、その他さまざまなジャンルの作品で今や日本の人気映画監督のひとりとして名を連ねる園監督。本作はそんな園監督(54才)が25年前に構想した内容がベースとなっている。

 

(映画あらすじ)

相棒のコンピューターと共に十数年の長い年月をかけて生身の人間が依頼した宅配便を届けるロボットの鈴木洋子(神楽坂恵)。古風な家型の宇宙船で録音テープにその日の記録を残す毎日だったが、配達のために降り立ったある星での出来事をきっかけに変化が訪れる。

 

日本中が浮かれていたバブル期にこの作品を構想していた園監督。宇宙船とはいえまるでサザエさんかドラえもんに出てきそうな庶民的なたたみの部屋、アンドロイドに見えない神楽坂演じるヒロイン洋子。シネマカリテの入口に展示してあった絵コンテ(精密なメカなどの)を見る限り、ディテールはそのままでも当時の構想とは多少違った仕上がりかもしれない。そして25年前には予想もできなかった被災後の東北がロケ地に使われている。廃墟となって住人がいない町、誰にも見られる事のない美しい自然。そこから、思いもがけない人物が空き缶を踏みながら現れる。

 

タイトルの「星」は「母子」とも読め、ひそひそ話す洋子とコンピューターの子供の声は旅がいつまで続くか分からない長い子育てにもなぞらえる。後半、宅配便の配達が進むにつれ前半のうっぷんがうそのように解放されていく。園監督の強い「生」へ思いが伝わってくる。(Y